思い込みの塔

「むかし住んでいた家の自分の部屋は二階でその窓からはちょうど赤と白の電波塔が見えていた。地方に住んでいたくせに私は色と造形からその塔を東京タワーと思い込んでいて、ディズニーランドは千葉にあるのに東京と頭につくように、この塔も東京にはないけれどきっと東京タワーなのだと信じてやまなかった。当時の自分の世界は縦には広く横には狭く、テレビで見る象徴は、すべて自分の近くにあると思っていたのだ。だから、漫画やアニメで見たようにいつか使い魔が現れて自分も魔法が使える日が来ると思っていたし、異世界に繋がるほら穴は街のどこかに絶対にあると思っていた。ただそれでも毎日触ることができる現実にはいやに敏感で、ほんとうはピンクが好きだったけど自分の肌やキャラクターに馴染まないことは誰よりも知っていたから、質問には青が好きと口に出して言ってみたりする。すると言葉は呪いだから口にしている途中でピンクが好きだった頃を忘れてしまったりする。白い食器や、やわらかなひだまり、不純な混じりのない美しいものだけを周りに置いて生きてみたいけれど、それらが世のいいといわれる周波と合っていたって自分の周波とはあまり合わなくなってくる。いつか身体から離れることを知っている。怖くていびつだったりするものを集め、これが完成形だと作り手の元を離れたもの、それに対する気持ちの切りの良さを感じて、ひどく安心するのだった。」

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